温泉施設 やまなみの湯は、施設の老朽化や需要の変化に対応し、デザインによって価値やイメージを明確に打ち出すことで、新たな顧客層の開拓につながった事例です。
やまなみの湯は別府市と大分市に店舗があり、パチンコやカラオケ店などを運営する大分県別府市のダイヤモンドグループが運営しています。同社とは2017年に社名変更をした際、会社のロゴ作成や理念のビジュアル化をお手伝いしたのをきっかけにデザインの相談をいただくようになりました。相談者である専務取締役は、明確なビジョンをもっている方です。「やまなみの湯」は、そもそもとても良い泉質の温泉があるのですが、ブランドのイメージを統一し、近年盛り上がりをみせているサウナの需要にも応えられる施設にすることでより特徴を打ち出していきたいと考えていました。
そこで、このプロジェクトは、熊本の「湯らっくす」や福岡の「筑紫野 天拝の郷」など、サウナーたちの間で聖地と言われている場所を手がけるアポロ計画(福岡県)、店舗の内装デザインを担当するクレアプランニング(福岡県)、イノシタデザインという、さまざまな専門領域を横断したチーム構成で進められました。大分県は別府や湯布院など各地に温泉があり、全国一の源泉数を誇る地域です。アポロ計画は、地域に恵をもたらす別府の「地獄」をコンセプトに、新たに2つのサウナをつくりました。サウナに欠かせない水風呂は、「デュアルチラー強冷泉風呂」と銘打ち、温泉水を2つの冷却装置で冷却し、常にクールダウンに最適な温度をキープすることができるという特徴もあります。

このような施設整備に合わせ、デザイナーとして、ロゴマーク、室内外のサイン(暖簾やサインなど約100カ所)、入口の写真スポット、ツール(入浴券、スタンプカード)などを制作しました。シンボルマークは、どのような人から見てもわかりやすく、親しみやすくしようと、大分や温泉をイメージさせる「猿団子」のキャラクターにしています。またその猿たちが集まったシルエットは、サウナーの必需品サウナハットの造形に寄せました。

2022年夏にリニューアルオープンしてからは、SNSなどの口コミで広がり、入館者やグッズの販売などが好調で、売上は前年比で130-140%で推移しているそうです。毎日来てくださる地元の方もいて、観光客の方だけでなく地域からも愛される施設となっているようです。
余談ですが、プロジェクトチームのメンバーと打ち合わせの後に温泉やサウナに入ると、不思議と心の壁がなくなるような気持ちになりました。計画段階で、施設が自然災害の被害を受けるという予期せぬ事態もありましたが、温泉でチームアップしたおかけでスムーズに進んだのかもしれません。こうした体験は、「おんせん県」ならではかもしれませんね。

[やまなみの湯]