hyakmas
2019-:ロゴ、シンボルマーク、パッケージ、ペーパーアイテム、ウェブサイト、写真撮影、映像制作
ヒャクマスは大分県臼杵市で、農薬や化学肥料、除草剤などを一切使用せずにキウイフルーツを生産している農園です。運営する夫婦の確固たる思想やこだわりを伝えるため、ロゴ、Webサイト、包材などを制作しました。
関東から移住した夫婦は、2017年に耕作放棄地寸前だったキウイ農園を引き継ぎ、国内外で学んだパーマカルチャーをベースに持続可能な循環型農業を目指しています。出荷量は、年間5トン程度。始めた当初は、農協組織を介して出荷していましたが、それだと栽培方法を問わず集荷、規格で分類され、同じ値付けで出荷されてしまいます。ヒャクマスのお二人は、「大事に育てた作物、思いも含めて自分たちの手で直接消費者に届けたい」と、販路開拓に試行錯誤していました。
相談をいただいてから何度も訪問し、お話を聞いていると、農法から暮らし方にまで一貫してヒャクマスの思想が表れていて、お二人の気づいていない特徴や魅力がたくさんあることがわかりました。例えば、早朝の美しい農園の風景、多くの農家が取り入れている輸入品の花粉には頼らず、自分たちで花粉を採取して生成していることなどです。
さまざまなツールを制作するにあたり、ヒャクマスの現場で体験した熱量や風景を「素直に、ありのまま」伝えたいと思いました。Webサイト( https://hyakmas.com )や生産方法へのこだわりを説明する動画は、お二人の言葉や姿を過剰に整えず、とことん語るようにしました。特に、Webサイトの「わたしたちのこと」は、美術家の二宮圭一さんに、イラストと文字数制限を設けずにテキストで表現してもらうよう依頼。二宮さんの機微を捉える繊細な観察眼を通して、お二人の人柄や雰囲気がにじみ出る内容になっています。このほかに、贈答用包材や加工品のラベルは、地球環境を配慮して脱プラスチックを可能な限り実現しながら、オリジナリティや高級感は失わないようにしました。
ちなみに、ヒャクマスという屋号は「百姓増田」の略で、名字に由来して名付けたそうです。ロゴマークは、作物の実りを表現した漢字の「百」を中心に据え、ツルの左側は「人の手」を、下部を直線的にしたロゴタイプは大地を、それぞれ表します。それら全てが合わさるとヒャクマスの風景が立ち上がってくるようなイメージで作りました。
このように相談に応じた最適解を実現するため、デザイナー以外にも、カメラマンやイラストレーター、プログラマーといった専門家に関わってもらうことがあります。その分、デザイン費以外の予算が発生します。ヒャクマスでは、どのような方がどういった役割で関わるかを事前に説明し、助成金活用やスケジュールなども相談しながら、伴走するように進めていきました。
現在、青果はインターネットやふるさと納税など独自の販路が広がり、卸単価は相談前の2倍程度になったほか、ドライフルーツやソースなどの加工品も開発したことで、年間を通じた売上確保につながっています。当初は、食の安全や環境保護に高い関心のある消費者に届けることを想定していましたが、それ以外にも小売店やバイヤーの方々がWebサイトを見てくださり、商談につながることが増えています。生産現場の裏側をしっかり伝えることで、信用できるブランドの構築につながっているようです。
撮影:井下 悠
撮影:脇屋 伸光[ヤナギヤワークス]